社会福祉法人/保育園の繰越金(前期末支払資金残高)って何? 基本ルール解説

今回は保育園の前年度から繰り越された資金の余り(これを会計上「前期末支払資金残高」と呼びます)について解説します。
この「前期末支払資金残高」は、適切に委託費が使用された結果手元に残った大切な財産ですが、公費である委託費を財源としている性質上、「どのように使うことができるのか」「次の年度にどれだけ繰り越して良いのか」について、具体的なルールが定められています。
これらのルールを正しく理解し、遵守することは、保育園の適正な運営を行う上で非常に重要です。手元にある資金を、必要な事業に効果的に活用しつつ、会計処理や行政手続きを円滑に進めるためにも、ぜひ内容をご確認いただきたいと思います。
これから、その基本的なルールについて、特に重要なポイントを絞って解説します。
- 前年度からの繰越金は、自由に使えるわけではない
- 使うときには、原則として手続きが必要である
- 特定の保育園では、繰越金をより柔軟に活用できる場合がある
- 翌年度に繰り越せる金額には上限がある
これらの点を中心に解説しますので、皆様の保育園運営の参考になれば幸いです。
1.繰越金を使う時の手続きの原則
- 前期末支払資金残高を使用する(取り崩す)場合、原則として事前に所轄庁(都道府県や市町村など)と協議する必要があります。
- ただし、自然災害などのやむを得ない理由で使う場合や、使う金額がその年度の保育所の事業活動収入計(予算)の3%以下である場合は、事前の協議を省略できます。
2. 繰越金を使える範囲(特定の保育所の場合)
- 特定の会計基準に基づいた決算書を作成し、第三者評価加算の認定を受けるなど、特定の要件を満たす保育所では、事前に所轄庁(社会福祉法人や学校法人の場合は理事会)の承認を得ることで、繰越金を以下の目的に使うことができます。
- 保育所の運営に必要な人件費や光熱費などの通常の費用が不足した場合の補填
- 法人本部の運営に関する経費
- 法人が行う他の社会福祉事業や子育て支援事業、公益事業の運営や施設整備のための経費
- 社会福祉法人や学校法人が運営する保育園の場合は理事会承認でこの運用ができることがポイントです。この場合、理事会で予算の承認と合わせて前期末支払資金の使用についても承認してもらうと良いでしょう。
3. 翌年度に繰り越せる金額の上限
- 年度末に手元に残る資金(当期末支払資金残高)のうち、次の年度に繰り越せる金額には上限が定められています。翌年度に繰り越せる繰越金は、当該年度の委託費収入の30%以下とされています。
- これは、委託費が適切に使われ、将来の費用に備えて計画的に貯めたお金であるべきであり、必要以上に多くのお金を持ちすぎないようにするためです。
- 決算書の当期末支払資金残高が委託費収入の30%以下となっているか必ず確認しましょう。
4.まとめ
私立保育所は、前年度からの繰越金(前期末支払資金残高)を使う際には原則所轄庁の許可が必要であり、使える範囲も定められています。また、次の年度に繰り越せる金額には年間の委託費収入の30%以下という制限があり、委託費は過度に手元に残すのではなく、適切に保育所の運営や関連事業のために活用することが求められています。
委託費の弾力運用については、以下の記事で解説しています。
<参考>
- 『子ども・子育て支援法附則第6条の規定による市立保育所に対する委託費の経理等について』最終改正 府子本第367号 子発0416第3号 平成30年4月16日 内閣府子ども・子育て本部統括官 厚生労働省雇用均等・児童家庭局長
画像生成: Gemini