土地改良区/消費税の納税義務者に該当していないかチェックしてみましょう!

 

土地改良区の消費税の納税義務の判定について整理してみます。

ほとんどの土地改良区の事業年度は、4月から3月までとなっていると考えられますが、今回は平成30年度を例に消費税の納税義務が発生することにならないかどうか、チェックしてみます。

次のいずれかに該当する場合は、平成30年度の事業年度は消費税の課税事業者に該当します。

(以下、全て事業年度は4月1日から3月31日を想定して記載しています。)

1.基準期間の課税売上高が1,000万円を超える場合

消費税の納税義務者は、原則として全ての事業者です。土地改良区も事業者に該当しますので、消費税の納税義務者になります。

しかし、基準期間の課税売上高が1,000万以下の土地改良区については、別段の定め(2.以降で説明します。)がある場合を除き、消費税の納税義務が免除されます

基準期間とは、土地改良区の場合、原則として前々事業年度(2事業年度前)のことをいいます

課税売上高とは、土地改良区の場合、例えば以下のような取引が該当します。

  • 都道府県や市町村から受ける取水施設の管理などの業務委託料収入
  • 農地転用のための調査費収入、他目的使用のための調査費収入
  • 未収賦課金の催促手数料収入
  • 他目的使用料収入(土地(地上権含む)の貸付に該当するものは除く)
  • 小水力発電などによる売電収入
  • 車両などの固定資産売却収入
  • 自動販売機を設置することにより入金される自動販売機手数料
  • その他対価を得て行う資産の譲渡、貸付け、役務の提供による収入(非課税とされるものを除く)

これらの取引の合計が、1,000万円を超えていないかどうか、チェックしましょう。

なお、1,000万円を超えていないかどうかの判定は、法人全体で判定します。(一般会計だけで判断したり、特別会計だけで判断することはできません。)

平成30年度の納税義務を判定する場合は、平成28年4月1日から平成29年3月31日までの事業年度の上記取引の合計が1,000万円を超えていれば、平成30年度は消費税の課税事業者に該当します。

 

2.消費税の課税事業者を選択している場合

基準期間の課税売上高が1,000万円以下で、納税義務が免除される事業者でも、「課税事業者選択届出書」を提出して課税事業者をあえて選択している場合は、納税義務は免除されません。(当たり前ですが)

多額の設備投資などをする場合は、消費税の還付を受けるために、あえて課税事業者を選択する場合がありますが、このようなケースは税理士が関与していると思いますので、詳しい内容は割愛します。

 

3.特定期間の課税売上高が1,000万円を超える場合

1.の基準期間の課税売上高が1,000万円以下である場合であって、2.の課税事業者の選択をしていない場合でも、まだ安心はできません。

次は特定期間の課税売上高又は支払った給与等の額が1,000万円以下かどうかで納税義務を判定します。

特定期間とは、原則として、前事業年度(1事業年度前)の4月1日から9月30日までの6ヶ月の期間のことをいいます

1.の基準期間との違いを整理すると以下の通りです。

  • 1.の基準期間…2事業年度前の事業年度(前々事業年度)
  • 2.の特定期間…1事業年度前(前事業年度)の4月1日から9月30日までの6ヶ月間

 

特定期間の判定では、課税売上高に変えて、特定期間中に支払った給与等の金額により判定することができます。どちらで判定するかは任意です

この場合の給与等とは、所得税の課税対象とされる給与、賞与等が該当し、所得税が非課税とされる通勤手当、旅費等は該当せず、未払額は含まれません。

整理すると以下の通りです。

  • 特定期間中の課税売上高、給与等の支払額がいずれも1,000万円を超えていれば、納税義務あり
  • 特定期間中の課税売上高、給与等の支払額のどちらかが1,000万円以下であれば、納税義務なし

特定期間の判定で平成30年度の納税義務を判定する場合は、平成29年4月1日から平成29年9月30日までの6ヶ月間の課税売上高、給与等の支払額がいずれも1,000万円を超えていれば、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても、平成30年度は消費税の納税義務者に該当します。

 

4.高額特定資産を取得した場合

さらに次のステップの判定です。平成30年度の納税義務の判定を例にします。

  • 平成28年度の課税売上高は1,000万円以下(これだけなら平成30年度は免税事業者に該当)
  • 平成28年度は簡易課税制度の適用を受けない課税事業者に該当(平成26年度の課税売上高1,000万円を超えていた等の理由で)
  • 平成28年度中に1取引1,000万円以上の高額な資産を購入(※)
  • その他、課税事業者の選択はなく、特定期間の判定にもひっかからない

(※)平成27年12月31日までに締結した契約に基づき、平成28年4月1日以後に高額特定資産の仕入れ等を行った場合には、当該特例の適用はありません。

 

この場合、本来なら基準期間の課税事業者が1,000万円以下で、その他の要件にもひっかからないため、平成30年度は課税事業者に該当しないと判断してしまいそうですが、上記のような場合、平成29年度、平成30年度は強制的に課税事業者に該当します。

この期間は簡易課税制度の適用もできません。

 

また、次のような場合も平成30年度は課税事業者に該当します。

  • 平成28年度の課税売上高は1,000万円以下(これだけなら平成30年度は免税事業者に該当)
  • 平成29年度は簡易課税制度の適用を受けない課税事業者に該当(平成27年度の課税売上高1,000万円を超えていた等の理由で)
  • 平成29年度中に1取引1,000万円以上の高額な資産を購入(※)
  • その他、課税事業者の選択はなく、特定期間の判定でもひっかからない

(※)平成27年12月31日までに締結した契約に基づき、平成28年4月1日以後に高額特定資産の仕入れ等を行った場合には、当該特例の適用はありません。

 

このような場合は、平成30年度、平成31年度は強制的に課税事業者に該当します。

ここまでくると、かなりややこしくなります。税理士でもしっかり調べて判断しますので、該当しそうな場合は、税理士などに相談することをおすすめします。

 

5.消費税の納税義務者に該当することとなった場合には、課税事業者届出書の提出を忘れずに!

判定の結果、消費税の課税事業者に該当することになった場合には、届出書の提出が必要です。

提出期限は決まっていませんが、当該事実が生じたときに、速やかに提出することとされています。

どのような理由で課税事業者に該当することになったかにより、届出書の種類が異なるため注意しましょう。(いずれも国税庁のホームページからダウンロードできます。)

 

  • 基準期間の課税売上高が1,000万円を超えた場合(上記1.)…「消費税課税事業者届出書(基準期間用)」
  • 特定期間の課税売上高が1,000万円を超える場合(上記3.)…「消費税課税事業者届出書(特定期間用)」
  • 高額特定資産を購入した場合(上記4.)…「高額特定資産の取得に係る課税事業者である旨の届出書」

 

なお、「課税事業者届出書」は、「課税事業者選択届出書」とは全く違うものです。間違って提出しないように注意しましょう!(間違えたらとんでもないことになります。)

 

 

<編集後記>

消費税の納税義務判定はとても複雑です。租税回避行為とのイタチごっこで法改正を積み重ねてきた経緯があり、税理士でもよく事実関係を調べて判断しないとリスクがある分野です。(税理士に対する損害賠償で一番多いのは、消費税と言われています。)

 

 

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