土地改良区/維持管理適正化事業の会計処理

 

土地改良区の維持管理適正化事業の会計処理を整理しました。

複式簿記では、この維持管理適正化事業の会計処理が複雑になりますが、理解できるとそこまで難しいものではありません。

事業ごとに、総事業費、拠出金の額、進捗状況を必ず把握しておくようにしておくことが必要です。

 

1.複式簿記と単式簿記で異なる適正化事業の会計処理

(1)単式簿記の適正化事業の会計処理

単式簿記の場合は、収入は「適正化事業交付金収入」等の科目により、支出は「適正化事業拠出金支出」等の科目で処理します。

収入については、例えば土地改良区が事業費の30%を拠出金として負担した分(これから負担する分も含む)と補助金の分がまとめて入金されますが、同じ「適正化事業交付金収入」として処理しても問題はありません。

また、支出については、事業費の30%を拠出金として土地改良区が負担した分も、事務費相当額である事務拠出金の分も、同じ「適正化事業拠出金支出」として処理しても問題はありません。

予め予算化した科目でしっかり執行されていれば、それで問題はありません。

 

(2)複式簿記の適正化事業の会計処理

複式簿記の適正化事業の会計処理は、土地改良区負担分とそれ以外を明確に分けて考える必要があります。

土地改良区負担分はあくまで土地改良区の積立資産であるため、正味財産増減計算書の収益や費用には計上されず、貸借対照表に計上されます。

整理すると次の通りです。

収入/支出 単式簿記の科目 複式簿記の科目 備考
収入 適正化事業交付金収入 適正化事業交付金収入(P/L) 補助金分
適正化事業拠出金(B/S) 土地改良区負担分(事業実施
適正化事業拠出金未払金(B/S) 土地改良区負担分(事業実施
支出 適正化事業拠出金支出 適正化事業拠出金(B/S) 土地改良区負担分(事業実施
適正化事業拠出金未払金(B/S) 土地改良区負担分(事業実施
適正化事業事務拠出金(P/L) 事務費

※B/Sは貸借対照表、P/Lは正味財産増減計算書のことを指します。

 

2.事業実施前と事業実施後で異なる会計処理の考え方

(1)概要

維持管理適正化事業の総事業費のうち、土地改良区の拠出金としての負担分(30%)の勘定科目は、実施前の事業に係る拠出金なのか、既に完了した事業に係る拠出金なのかにより、次の通り勘定科目が異なります。

適正化事業の進捗状況 勘定科目 資産/負債
事業実施前 適正化事業拠出金 資産の部に計上される
事業実施後 適正化事業拠出金未払金 負債の部に計上される

 

(2)5年間の拠出が終わった後に事業が実施される場合

維持管理適正化事業は通常、総事業費のうち土地改良区の拠出金としての負担分(30%)を土地改良区が5年間に均等に分割して積み立て、最終年度に総事業費の90%(土地改良区の拠出金(30%)、国の補助金(30%)、都道府県の補助金(30%))が当該維持管理適正化事業の交付金として入金されます。

この場合は5年目の最終年度に事業が実施されるため、1年目から5年目までの拠出金は全て事業実施前のものに該当します。従って、支出時の勘定科目は「適正化事業拠出金」を使用します。

具体的な会計処理をみてみましょう。

(ア)前提条件

  • 総事業費:3,000,000円
  • 適正化事業交付金:2,700,000円
    • 土地改良区の拠出金:900,000円(年180,000円×5年)
    • 国の補助金:900,000円
    • 都道府県の補助金:900,000円
  • 5年目に事業実施

 

(イ)1年目〜4年目の会計処理(拠出金の支払い)

金額 借方 貸方 摘要
¥180,000 適正化事業拠出金 現金預金 ○○事業適正化事業拠出金

 

 

(ウ)5年目(最終年度)の会計処理(事業の実施)

金額 借方 貸方 摘要
¥180,000 適正化事業拠出金 現金預金 ○○事業適正化事業拠出金
¥900,000 現金預金 適正化事業拠出金 適正化事業拠出金(改良区負担分)
¥1,800,000 現金預金 適正化事業交付金収入 適正化事業交付金(補助金)
¥3,000,000 (例)維持管理費 現金預金 総事業費

 

上記の例では、総事業費3,000,000円の30%の900,000円は、あくまで土地改良区の積立金であるため、正味財産増減計算書には計上されず、貸借対照表で処理されます。

正味財産増減計算書には、総事業費3,000,000円のうち60%(国の補助金30%、都道府県の補助金30%)の1,800,000円が「適正化事業交付金収入」として計上されます。

 

(3)5年間の拠出が終わる前に事業が実施される場合

適正化事業の中には5年間の拠出を待たずに実施される場合がありますが、この場合、事業実施前の年度までの拠出分については、「適正化事業拠出金」として処理し、事業実施後の年度に支払う分については、「適正化事業拠出金未払金」として処理します。

こちらも具体的な会計処理をみていきましょう。

(ア)前提条件

  • 総事業費:3,000,000円
  • 適正化事業交付金:2,700,000円
    • 土地改良区の拠出金:900,000円(年180,000円×5年)
    • 国の補助金:900,000円
    • 都道府県の補助金:900,000円
  • 3年目に事業実施

 

(イ)1年目、2年目の会計処理(拠出金の支払い)

金額 借方 貸方 摘要
¥180,000 適正化事業拠出金 現金預金 ○○事業適正化事業拠出金

 

 

(ウ)3年目の会計処理(事業の実施)

金額 借方 貸方 摘要
¥180,000 適正化事業拠出金 現金預金 ○○事業適正化事業拠出金
¥540,000 現金預金 適正化事業拠出金 適正化事業拠出金 ※1年目〜3年目までの累計
¥360,000 現金預金 適正化事業拠出金未払金 適正化事業拠出金 ※4年目、5年目の分
¥1,800,000 現金預金 適正化事業交付金収入 適正化事業交付金(補助金)
¥3,000,000 (例)維持管理費 現金預金 総事業費

 

 

(エ)4年目、5年目の会計処理(拠出金の支払い)

金額 借方 貸方 摘要
¥180,000 適正化事業拠出金未払金 現金預金 ○○事業適正化事業拠出金

 

上記の例では、4年目、5年目の土地改良区の拠出金の支出前に総事業費の90%(土地改良区の拠出金相当額30%、国の補助金30%、都道府県の補助金30%)の2,700,000円が先に入金されますが、あくまで4年目、5年目の土地改良区が負担すべき拠出金分は事業実施後に支払いの義務が残るため、「適正化事業拠出金未払金」として計上する必要があります。

 

3.事業ごとに拠出状況や実施状況を管理する必要がある

このように、適正化事業は事業の実施状況により会計処理が異なりますので、複数の適正化事業が並行して進んでいる実務では、適正化事業ごとに拠出金の額や、事業の進捗状況を把握しておく必要があります。

 

4.複式簿記への移行初年度の開始貸借対照表への計上を忘れずに

単式簿記から複式簿記へ移行する土地改良区で、適正化事業が実施されている場合は、複式簿記移行初年度の開始貸借対照表に適正化事業拠出金、適正化事業拠出金未払金の計上モレがないように注意が必要です。

 

 

<編集後記>

この適正化事業、土地改良区に関与しはじめた頃は全くなんのことやらで意味がわかりませんでした。土地改良区のお客様から何度も何度も説明して頂き、やっと理解できてきた感じです。

昨日、ある地方連合会へ伺ってきました。今年度からその地方連合会の税務・会計業務に関与させて頂けそうです。

地方連合会にも関与することで、より土地改良区の事業や会計処理について理解が深められればと思います。

 

 

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