iDeCo・小規模企業共済・国民年金基金の最強の組み合わせは?タイプ別に徹底解説

iDeCo・小規模企業共済・国民年金基金、どれがいい?と悩む方へ。拠出時の節税効果は同じ。重要なのはあなたのタイプに合った組み合わせです。個人事業主から会社員まで、最適な優先順位と始め方を解説します。

この記事の情報は、最終更新日時点の情報に基づいています。iDeCoの上限額や退職所得控除などの税制は、今後の改正で変更される可能性があります。制度の利用や最終的な判断にあたっては、必ず国税庁や厚生労働省などの公式サイトで最新情報をご確認ください。

この記事の要旨

  • 拠出時はいずれも所得控除で効果は一緒。差が出るのは掛金の上限・資金が拘束されるかどうか・給付時の形・受取時の課税。
  • 個人事業者等(第1号被保険者)のiDeCo+国民年金基金+付加年金の掛金の上限は月6.8万円。国民年金基金の掛金や付加年金を払うと、その分だけiDeCo上限が縮小。小規模企業共済は別枠。
  • これらの拠出は国民健康保険料(税)の賦課基準額には通常影響しない。(国民健康保険料の削減にはならない。)

この記事の想定読者と到達目標

想定読者

フリーランス・個人事業者(第1号被保険者)、小規模法人役員、会社員・公務員(企業年金の有無を含む)

到達目標

自分の属性でどの組み合わせを選ぶべきか、受取時課税まで含めて根拠ある判断ができる。

1. 結論(タイプ別おすすめ)

個人事業者
運用重視

低コスト長期運用

付加年金(400円/月)→ iDeCoを上限まで → 小規模企業共済

個人事業者
安心重視

終身で決まった給付

国民年金基金を主軸 → 残りをiDeCo → 小規模企業共済

個人事業者
資金繰り不安

中途の資金手当

小規模企業共済を少額開始(契約者貸付の活用)
+ 付加年金/少額iDeCo

会社員
(企業年金なし)
第3号

シンプル運用

iDeCo 月23,000円
副業などで事業者要件を満たせば小規模企業共済も検討

会社員
(企業年金あり)
公務員

上限内で積立

iDeCo 最大月20,000円
(勤務先制度との合計で月55,000円以内)

50代
出口最適化

退職金×年金の枠取り

小規模企業共済(退職所得の枠活用)+ iDeCo(年金/一時金を設計)

メモ

  • 第1号被保険者のiDeCo+国民年金基金+付加年金の上限は月6.8万円。小規模企業共済(〜月7万円)は別枠。付加年金と国民年金基金は併用不可。
  • iDeCo上限の見直し:2024年12月以降、確定給付企業年金や共済等の他制度に加入する会社員・公務員のiDeCo拠出限度額は最大月2万円となりました。ただし、企業型DCの事業主掛金や他制度掛金相当額との合計で月5.5万円を超えない範囲内で認められるため、勤務先の掛金水準によっては2万円より低くなったり、iDeCoに拠出できない場合もあります。

2. タイプ別解説:あなたの最適解は?

2-1-1 個人事業者(運用重視)
付加年金 → iDeCo上限 → 小規模企業共済

2-1-2 個人事業者(安心重視)
国民年金基金を主軸 → 残りiDeCo → 小規模企業共済

2-1-3 個人事業者(資金繰り不安)
小規模企業共済 少額(貸付活用)+ 付加年金/少額iDeCo

2-2-1 会社員・第3号(企業年金なし)
iDeCo 23,000円/月。副業で事業者要件を満たせば共済も検討

2-2-2 会社員(企業年金あり)・公務員
iDeCo 20,000円/月(勤務先の企業年金と合算して月55,000円以内)。勤務先制度に合わせ守備的配分で重複回避

2-3 50代・出口最適化
共済=一時金(退職所得)+ iDeCo=年金/一時金で設計

2-1. 個人事業者(第1号被保険者)

  • 2-1-1. 運用重視型:まず付加年金(月400円)で確定利回りの高い土台を作り、次にiDeCoを上限まで活用して低コストの投資信託で長期的なリターンを狙います。余力があれば小規模企業共済で退職金枠を育てます。
  • 2-1-2. 安心重視型:将来の受取額が確定している国民年金基金を主軸に、終身年金などで生活の基盤を固めます。残りの掛金枠でiDeCoを併用し、最後に小規模企業共済を追加します。
  • 2-1-3. 資金繰り重視型:事業の状況に応じて資金が必要になる可能性を考慮し、契約者貸付が利用できる小規模企業共済を少額から始めます。併せて、付加年金や少額のiDeCoで将来への備えも進めます。

2-2. 会社員・公務員

  • 2-2-1. 企業年金がない会社員・第3号被保険者:まずはiDeCoの上限(月23,000円)の活用が基本です。副業の所得があり、個人事業主としての要件を満たせば、小規模企業共済への加入も視野に入ります。
  • 2-2-2. 企業年金(DB/DC)がある会社員・公務員:iDeCoの上限(月20,000円:勤務先制度との合算条件あり)を基本に考えます。勤務先の制度(企業型DCなど)と商品が重複しないような投資商品を選ぶなど、補完的な役割を持たせるのが合理的です。

2-3. 50代・出口戦略を考える方

退職が視野に入る年代では、受取時の税負担を最適化することが重要です。小規模企業共済は一時金で受け取り退職所得控除を最大限活用し、iDeCoは年金で受け取るか、受取年をずらして一時金で受け取るなど、控除枠を使い分ける戦略を立てます。

3. 各制度の概要(要約)

小規模企業共済((独)中小企業基盤整備機構)

  • 対象:個人事業者・共同経営者・会社等役員
  • 掛金:月1,000〜70,000円(500円刻み)
  • 流動性:任意解約可・契約者貸付あり/短期解約は元本割れ・12カ月未満解約は給付なし
  • 受取時の課税:一時金=退職所得(一定事由)/年金=公的年金等/併用可(事由による)
  • 他制度の併用:iDeCo・国民年金基金・付加年金と併用可

iDeCo(個人型確定拠出年金)

  • 対象:原則として20歳以上65歳未満の国民年金被保険者
  • 掛金
    • 第1号被保険者:月68,000円(iDeCo・国民年金基金・付加年金の合計で68,000円が上限)
    • 会社員(企業年金なし):月23,000円
    • 会社員(企業年金あり)・公務員:月20,000円(企業年金等との合計が月55,000円以内の場合)
  • 流動性:原則60歳まで引出不可(脱退一時金は要件厳格)
  • 受取時の課税:一時金=退職所得/年金=公的年金等/併用可
  • 他制度の併用:国民年金基金・付加年金と併用可(ただし掛金上限枠を圧迫)

付加年金(国民年金の付加保険料)

  • 対象:第1号被保険者のみ
  • 掛金:月400円(前納割引あり)
  • 流動性:途中停止可/返金は原則なし
  • 受取時の課税:公的年金等として老齢基礎年金に定額上乗せ
  • 他制度の併用:国民年金基金と併用不可/iDeCoとは併用可(iDeCo掛金上限を圧迫)

国民年金基金

  • 対象:第1号被保険者のみ
  • 上限:口数・型で設計(iDeCoと合算で月6.8万円枠内)
  • 流動性:原則解約不可(資格喪失時などに脱退一時金の可能性)
  • 受取時の課税:公的年金等(終身/確定年金)
  • 併用:付加年金と併用不可/iDeCoとは併用可(iDeCo掛金上限を圧迫)

4. 判断軸(iDeCo vs 国民年金基金)

拠出時の税効果はどちらも所得控除で同等。判断は、制度の性質(運用型/保険型)・上限の連動・流動性・受取の形/受取時の課税で行います。

4-1. iDeCo vs 国民年金基金 まずは3問セルフチェック

  1. 途中で使う可能性があるお金ですか?
    • はい:小規模企業共済を薄く併用(契約者貸付/任意解約)。
  2. 将来の年金額は確定している方が安心ですか?
    • はい:国民年金基金比重をアップ。
  3. 低コストで長期の市場リターンを取りに行きますか?
    • はい:iDeCo比重をアップ(第1号は付加年金→iDeCoが基本線)。

4-2. iDeCo vs 国民年金基金 性質の違い

制度タイプ

運用型:自分で商品(投信・定期など)を選ぶ。将来給付は運用結果次第。

保険型:終身/確定年金など給付があらかじめ決まる。

併用

国民年金基金の掛金や付加年金を払うとその分だけiDeCo上限が縮小。

第1号のみ加入可。付加年金と併用不可。iDeCoとは併用可だが、その分iDeCo上限を圧迫。

流動性

原則60歳まで引出不可(脱退一時金は要件厳格)。

原則解約不可(資格喪失等で脱退一時金が生じる場合あり)。

コストの見え方

口座管理手数料+投信の信託報酬(低コスト指数が選べる)。

保険料に費用が内包(見え方はシンプル/給付は確定)。

インフレ耐性

資産配分次第でインフレ耐性を持てる(株式比率等)。

名目給付が基本(将来の物価変動は前提次第)。

受取時課税

一時金=退職所得/年金=公적年金等/併用が選べる。

年金=公的年金等として課税(原則、一時金は想定しない)。

向いている人

低コストで長期運用したい/商品選択で柔軟に調整したい。

終身での上乗せなど額の確定を重視したい。

向いていない人

短期で使う可能性が高い/元本割れを絶対に避けたい/価格変動のストレスが大きい

短期で使う可能性が高い/運用で上振れを狙いたい/付加年金を使いたい

4-3 即決ルール

  1. まず付加年金(第1号のみ)を検討 → 効率が高い定額上乗せ。
  2. 運用重視なら:iDeCo > 国民年金基金(低コスト指数×長期分散)。
  3. 給付の確定性重視なら:国民年金基金 > iDeCo(終身/確定年金)。
  4. 途中資金の不安があるなら:契約者貸付制度等がある小規模企業共済を併用。
  5. 出口から逆算:一時金 = 退職所得控除、年金 = 公的年金等控除。小規模企業共済・iDeCoは設計の自由度が高い。

4-4 ミニシナリオ

  • 30代・第1号・運用派:付加年金 → iDeCo満額 → 小規模企業共済。
  • 40代・第1号・安心派:国民年金基金(終身+確定のミックス) → 残りをiDeCo → 小規模企業共済。
  • 50代後半・出口重視:小規模企業共済の一時金(退職所得)+ iDeCoの年金/一時金併用で控除枠を最適化。

5. 各制度の税務上の取扱い

5-1. 掛金支払時の税務上の取扱い

  • どの制度の掛金いずれも所得控除の対象
    • 小規模企業共済iDeCo小規模企業共済等掛金控除
    • 付加年金国民年金基金社会保険料控除
  • 年末調整/確定申告で原則控除証明書を提出(住民税は翌年度に反映)

5-2. 受取時の税務上の扱い

  • 小規模企業共済
    • 一時金(廃業・退職等):退職所得(退職所得控除適用、原則1/2課税)。
    • 任意解約等の一時金:一時所得(50万円控除、他の一時所得と通算)。
    • 年金受取:公的年金等(公的年金等控除)。
    • 一時金+年金の併用:該当事由に該当する場合は選択可。任意解約では不可。
  • iDeCo
    • 一時金:退職所得(退職所得控除の対象)。
    • 年金受取:公的年金等(公的年金等控除の対象)。
    • 一時金+年金の併用:可(控除枠の配分設計が可能)。
  • 付加年金
    • 老齢基礎年金に定額上乗せとして支給:公的年金等(公的年金等控除の対象)。
  • 国民年金基金
    • 年金として支給:公的年金等(公的年金等控除の対象)。原則として一時金は想定しない(資格喪失等で生じる脱退一時金等の取扱いは個別の要件による)。

5-3. 受取時設計の基本的な考え方

以下のパターンは、あくまで一般的な考え方の一例です。最適な受取方法は、退職時の他の所得(公的年金など)やライフプランによって大きく異なります。ご自身の状況に合わせた参考情報としてご活用ください。

パターンA:自営業(退職金なし)

  • 小規模企業共済:一時金(退職・廃業等の事由)を基本
  • iDeCo:年金受取で公的年金等控除を毎年活用

パターンB:会社の退職金あり(役員等)

  • iDeCoは年金受取(公的年金等控除の活用)。一時金で受ける場合は、会社の退職金等との支給年・対象期間の重なりが退職所得控除の重複調整の対象にならないか事前に確認し、必要に応じて受取時期をずらす。
  • 小規模企業共済:一時金(退職所得)を軸に、会社の退職金との合計額とタイミングを調整し、退職所得控除枠の範囲内で効率的に受ける。

パターンC:老後のキャッシュフロー重視

  • 小規模企業共済:一時金+年金の併用(該当事由の場合のみ)
  • iDeCo:年金受取で年額を公的年金等控除に寄せて平準化

6. よくある誤り

  • これらの制度によって拠出時の節税効果が異なる → いずれの制度も掛金の支払いは「所得控除」の効果があり節税効果は同等です。制度の差は掛金の上限・資金の流動性・受取時の課税方法です。
  • 付加年金と国民年金基金を同時に払える → 併用はできません。
  • 第1号被保険者のiDeCoの掛金の上限6.8万円は固定 → 国民年金基金の掛金/付加年金の額だけ縮小します。
  • これらの掛金を払うと国民健康保険が安くなる → これらの掛金は国民健康保険料の算定の基礎となる賦課基準額には通常影響はありません。
  • 小規模企業共済はいつでも有利 → 短期解約は元本割れリスクがあります。

7. FAQ

Q1. 小規模企業共済・iDeCo・付加年金・国民年金基金は併用できますか?
A1. 可能です。ただし付加年金と国民年金基金は併用できません。第1号被保険者のiDeCoの掛金の上限月6.8万円は、国民年金基金の掛金又は付加年金の掛金の額だけ縮小します。(iDeCoの掛金は1,000円単位である点に注意)

Q2. 会社員や公務員も付加年金に入れますか?
A2. 加入できません。付加年金は第1号被保険者のみが対象です。

Q3. 受取時の課税の違いを教えてください。
A3. 小規模企業共済・iDeCoは一時金(退職所得)か年金(公的年金等)かを選べるのが大きな違いです。国民年金基金・付加年金は原則として年金(公的年金等)として課税されます。

Q4. iDeCoの掛金は途中で引き出せますか?
A4. 原則60歳まで引出できません。厳格な要件を満たす場合に限り脱退一時金があります。

Q5. 小規模企業共済の資金化は可能ですか?
A5. 可能です。契約者貸付制度の活用と、任意解約の方法があります。契約者貸付制度は、解約せずに納付した掛金の範囲内(通常7~9割)で事業資金等を低金利で借り入れできる制度です。任意解約は、「解約手当金」を受け取ることができますが、掛金納付が20年(240カ月)未満だと元本割れします。特に12カ月未満では何も受け取れません。

Q6. 国民年金基金とiDeCoの比率はどう決める?
A6. 給付の確定性(安心)を重視するなら国民年金基金の比重をアップし、運用自由度とコストを重視するならiDeCo比重をアップするのがよいでしょう。

Q7. まず何から始めるべき?(第1号被保険者)
A7. 多くのケースで付加年金→iDeCo→小規模企業共済の順が出発点になります。

Q8. 年末調整/確定申告時の掛金の支払証明書はどう提出しますか?
A8. 小規模企業共済・iDeCoは小規模企業共済等掛金の払込(控除)証明書、付加年金・国民年金基金は社会保険料控除の証明書を年末調整/確定申告で提出します。

Q9. これらの拠出で国民健康保険は下がりますか?
A9. 通常下がりません(多くの自治体は「総所得金額等−基礎控除」を基準に算定)。

8. 改正注意

  • 退職所得控除の重複期間調整について
    • iDeCoの老齢給付金を一時金で受け取ると、その一時金は退職所得となり、他の退職金等と同様に「退職所得控除」の対象になります。
    • 複数の退職金やiDeCo一時金について、対象となる勤続期間・加入期間が重複しており、かつ支給時期が一定期間内に近接している場合、後に支給される退職手当等の退職所得控除額から、その重複期間分が差し引かれる仕組みがあります。(代表的には「退職金 → その後19年以内のiDeCo一時金」など。詳細な年数要件はいくつかのパターンがあるため本記事では概要のみとします。)
    • 対策:iDeCoを年金形式で受け取り退職所得としない、または一時金で受け取る場合でも、会社の退職金や小規模企業共済の一時金などとの受給時期を十分あける(目安として20年以上離すなど)ことで、この重複調整の影響を避けられる可能性があります。
    • 実際にどのルールが適用されるかは、「受取順序・受取時期・勤続/加入期間・金額」により大きく異なるため、多額の退職金や一時金を予定している場合は、最新の法令・国税庁資料をもとに個別にシミュレーションを行ったうえで判断してください。
    • 令和7年度税制改正により、令和8年1月1日以後に支給される老齢給付の一時金と退職手当等については、9年以内の重複期間について退職所得控除の二重適用を排除する仕組みが明確化されています。そのため、iDeCo一時金と会社の退職金等を近い時期に受け取る場合は、従来以上に「期間重複」の有無に注意が必要です。
  • 拠出限度額の見直しの方向性(令和7年度税制改正)
    • 第2号被保険者については、企業年金とiDeCoを通算した拠出限度額を月6.2万円とする共通枠への一本化、第1号被保険者についてはiDeCo+国民年金基金の共通限度額を月7.5万円へ引き上げる方針が示されています(いずれも関係法令の改正を前提)。実際の上限額や適用開始時期は、制度改正の施行状況を前提として最新情報を必ずご確認ください。

9. まとめ

iDeCo・小規模企業共済・付加年金・国民年金基金の掛金拠出時の節税効果は、いずれも「所得控除」で同じです。本当の差は「上限額」「資金の自由度」「受取時の税金」にあります。
最適化の鍵は、あなたのタイプに合った組み合わせを見つけること。個人事業主は「付加年金→iDeCo」、会社員は「iDeCo」を基本に検討をおすすめします。そして、将来の出口(受取時)から逆算して、自分だけの最強の組み合わせを設計することが最も重要です。

10. 参考情報

11. 関連内部リンク

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