企業主導型保育事業の注意点

 

2018年11月27日の日経新聞の記事で、「ちぐはぐ保育 誰のため?(中) 定員満たせぬ「企業主導型」 安易に開設、見通し甘く」という記事が掲載されていました。

 

<日経新聞の記事>

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO3727489002112018EE8000/

 

この記事では、開設してからわずか2ヶ月後に閉園した企業主導型保育所について取り上げられ、開設者側の見通しの甘さや、助成金の入金の遅さなどが問題点として取り上げられていました。

 

私の関与させて頂いているお客様に、実際に企業主導型保育所を経営されているお客様がいらっしゃいますが、実際に関与してみて、企業主導型保育所の経営には、次の点において注意が必要であると考えています。

 

1.助成金の入金サイクルが遅い

企業主導型保育所は、毎月の園児数に応じて助成金が入金されますが、この助成金が入金されるまで2ヶ月から3ヶ月近くかかります。例えば、4月分の助成金は6月頃に入金されます。

(一方で、社会福祉法人等が経営する認可保育所は、このような入金の遅れは基本的にありません。当月分が当月中に入金されます。)

この間も保育士の給料などの人件費や、家賃などの固定費は発生するため、手持ちの運転資金で支払うか、会社に運転資金がない場合は、経営者の自己資金を持ち出すなどしてしのいでいると思われます。

恐らく多くの企業主導型保育所から、内閣府や児童育成協会に対しこの問題点について苦情があげられていると思われますので、今後改善するかもしれませんが、企業主導型保育所を安定して経営するためには、最低でも2ヶ月から3ヶ月分の運転資金を準備しておくことが必要です。

運転資金を自力で捻出できない場合は、銀行や日本政策金融公庫から借り入れることも検討したほうが良いでしょう。

 

2.煩雑な経理処理が求められる

収入及び支出の報告が求められる

企業主導型保育事業の整備費や毎年の運営費については、収入及び支出の報告が必要です。

区分経理が必要

企業主導型保育事業は、助成金単位での経理を行うことが求められます。

例えば、企業主導型保育事業とその他の事業を経営している場合は、助成金の使途を明らかにするために、企業主導型保育事業とその他の事業を明確に分けて経理する必要があります。(ただし、税務署に対する申告や納税は法人としてまとめて行います。)

事業年度の読み替え

助成金は4月から翌年3月の年度単位となっているため、3月末決算法人以外の事業者については、助成金の確定のために、助成金年度単位(4月から翌年3月)での収入及び支出を明らかにする必要があります。

内部牽制体制の確保

会計責任者と出納職員(お金を扱う人)を別々に任命するなどの内部牽制のための体制を確保することや、預金通帳と銀行印の管理者を別にするなどの管理が求められます。

 

3.児童育成協会や都道府県等による定期的な監査がある

助成金の適切な執行や企業主導型保育事業の基準の遵守の観点から、児童育成協会による立入検査等が定期的に行われます。その際には、会計処理や適正な保育が行われているかチェックされます。

また、児童福祉法に基づき認可外保育施設指導監督基準に則った都道府県等による指導・監督も行われます。

 

4.保育所運営のノウハウが必要

保育所は人の命を預かる仕事ですから、さまざまなノウハウが必要です。

保育室の環境、非常災害措置、保育内容、給食、健康管理・安全確保、利用者への情報提供などなど。

何もノウハウがない状態から参入するのは、かなりリスクが高いと思います。

 

5.保育士の確保

現在は認可保育所でも保育士が足りないという状況であり、保育士を確保するのは非常に困難だということは認識しておく必要があります。

基本的に保育士が確保できないと園児を預かることはできないため、保育士の確保は最重要課題です。

 

6.役員報酬は大きくは取れない

一般企業では、儲かっていて利益が潤沢であれば、その使い道は自由であり、その利益を役員報酬に回すことも可能です。(定期同額給与や事前確定届出給与の制限はありますが)

一方で、企業主導型保育所ではその収入源は児童育成協会からの助成金と利用者からの利用料のみであり、また園児の定員数も決まっているため、一般企業のように収入は青天井(努力すればするほど上を目指せる)というわけにはいきません。

園児さえ安定して確保することができれば収入は安定しますが、助成金の中から役員報酬を大きく取るということはできないでしょう。

 

 

企業主導型保育についてあまり知らない経営者の場合、一見美味しそうな商売に見えるのかもしれませんが、実際はそこまで甘くないというのが個人的な実感です。

 

 

【編集後記】

冒頭の写真は10月に長野県松本市にあるアルプス公園に行ったときのものです。

とても広い公園で、大きな滑り台や、遊具がいっぱいあり、子どもたちは大喜びでした。

子連れの方には大変おすすめの公園です!