土地改良区/消費税の計算上、売電収入や他目的使用料の収益はいつの年度に所属させるべき?

土地改良区が小水力発電を行うことにより発生した売電収入や、他目的使用料収入、車両の売却収入などは消費税の計算上、いつの年度に帰属させるべきでしょうか。

このことを消費税法の用語で「資産の譲渡等の時期」といいますが、資産の譲渡等の時期は、原則として、資産の引渡しがあった時又は役務の提供を完了した日となります。(いわゆる引き渡し基準)

必ずしも支払いを受けた日に該当することにはならないため、注意が必要です。

 

※本記事は消費税の納税義務がある土地改良区を前提に記載しています。消費税の納税義務が無い土地改良区は関係ありません。土地改良区の消費税の納税義務について知りたい場合は、以下の記事を参考にしてください。

 

1.収益の計上時期は「引き渡し日」による判定が原則

土地改良区の課税売上には、小水力発電等による売電収入、他目的使用による収入(非課税となるものを除く)、調査手数料、車両の売却などがありますが、消費税の計算上、これらの収益の計上時期は、現金の入金日ではなく、「引き渡し日」により判定します。

(以下、事業年度は4月1日から3月31日を想定して記載しています。)

 

(1)消費税の計算上の収益の計上時期の原則的な考え方

取引の区分 資産の譲渡等の時期 取引の例
モノを売った場合 引き渡しのあった日 車両の売却
モノを貸した場合 契約や慣習により支払いを受けるべき日 他目的使用料
サービスを提供した場合 目的物の全部を完成して引き渡した日(物の引渡し要する場合)
又は
サービスの提供の全部を完了した日(物の引渡しを要しない場合)
売電収入
調査手数料

 

(2)モノを売った場合の具体例 【車両の売却】

例えば、平成30年3月(平成29年度)に古い車両を100万円で売却して買い主へ引き渡し、入金が平成30年4月(平成30年度)になった場合、資産の譲渡の時期は平成29年度になります。入金のあった平成30年度ではありません。

この場合は、平成29年度の消費税の申告において、当該車両の売却収入100万円を含める必要があります。

 

(3)モノを貸した場合の具体例 【他目的使用料(非課税取引を除く)】

土地改良区が受ける他目的使用料の資産の譲渡等の時期は、他目的使用契約により支払いを受けるべき日が資産の譲渡等の時期になりますが、前受分については注意が必要です。

例えば他目的使用料を向こう3年分一括して受け取る契約になっており、平成29年度に平成29年度、平成30年度、平成31年度分の3年分の他目的使用料90万円(1年30万円×3年分)をまとめて入金するような場合は、それぞれの年度においてそれぞれの使用料分が課税売上になるため、平成29年度の消費税の申告においては、当該使用料の平成29年度分の30万円だけを課税売上に計上します。

 

(4)サービスを提供した場合の具体例 【売電収入】

例えば、小水力発電による売電収益は通常1ヶ月、2ヶ月遅れで入金されますが、平成30年3月分(平成29年度)の売電について、年度を跨いで翌年度の4月や5月に入金があったとしても、平成30年3月分の売電収益は3月末までにサービスの提供が完了しているため、平成29年度の課税売上として計算する必要があります。

 

2.収支決算書(単式簿記)に基づいた消費税の計算が可能な特例とは?

消費税は原則として、1.の通り引き渡し基準により計算しますが、単式簿記を採用している一定の要件を満たす土地改良区については、単式簿記により作成した収支決算書により消費税を計算することができます。

(1)特例の概要

本特例は、国や地方公共団体の特例としての制度ですが、国や地方公共団体と同様に単式簿記を採用している土地改良区についても、一定の要件を満たすことで、本特例の適用を受けることができます。

国、地方公共団体の会計は、予算決算及び会計令又は地方自治法施行令の規定により、その歳入又は歳出の所属事業年度が定められており、これらの規定において、一定の収入又は支出については、発生年度を基準として出納整理期間内の収入又は支出をその発生年度の決算に計上し、これにより得ないものについては、現金の収支の事実の属する会計年度の所属として整理するなど、一般の民間企業とは異なる会計処理が行われており、消費税もこの考え方に合わせることを認める特例があります。

本特例による場合の資産の譲渡等の時期は、以下の通りです。

区分 特例の内容
資産の譲渡等の時期 法令の規定によりその対価を収納すべき会計年度の末日に行われたものとすることができる。
課税仕入れ等の時期 法令の規定によりその費用の支払をすべき会計年度の末日に行われたものとすることができる。

 

(2)特例を受けるための要件

本特例を受けるための要件は以下の通りです。

  1. 規約に定める会計処理の方法が国又は地方公共団体の会計の処理の方法に準じていること
  2. 本特例の適用について、納税地の所轄税務長から承認を受けること

 

A.の要件を満たすためには、「土地改良区規約例」(平成28年8月26日28農振第1130号)によると、規約に次の内容を記載しておく必要があります。

(会計年度及びその独立の原則)
第32条

2 収入とは、一会計年度における一切の現金の収納をいい、支出とは、一会計年度における一切の現金の支払をいう。

(出納整理期間)
第45条 この土地改良区の毎会計年度における収入の受入期限及びその支出の支払期限は、翌年度の○月○日限りとし、同日をもって出納に関する事務を完結する。

2 収入の会計年度所属は、次の区分による。

一 納期の一定している収入は、その納期の末日の属する年度
二 ・・・以下省略

3 支出の会計年度所属は、次の区分による。

一 借入金の元利償還金は、支払期日の属する年度
二 ・・・以下省略

 

B.については、「消費税法別表第三に掲げる法人に係る資産の譲渡等の時期の特例の承認申請書」を所轄税務署長に提出し、承認を受けることになります。本特例は承認を受けた日の属する課税期間から適用が可能です。

 

(3)複式簿記に移行した土地改良区は本特例は適用できる?

複式簿記へ移行した土地改良区については、本特例の適用はできないと考えています。

なぜなら、「土地改良区規約例」(平成28年8月26日28農振第1130号)において、第45条の出納整理期間に関する部分については、「複式簿記方式の場合、本条は削除すること。」との記載があり、複式簿記に移行している土地改良区の規約には、出納整理期間の記載が無いものと考えられるためです。(出納整理期間の記載が無い=国又は地方公共団体の会計処理に準じた方法とはならない)

また、複式簿記に移行したということは、会計処理を発生主義(上記1.の考え方とほぼ同義)で行っているはずであるため、消費税の計算も当然に原則的な処理であるべきということも理由です。

 

 

<編集後記>

実務においては、複式簿記に移行した土地改良区でも収支決算書は出納整理期間がある単式簿記方式で作り続けている場合が多いのではないかと考えられます。この場合は原則、特例どちらの適用も可能なのか、正直わかりません。ただし、規約の要件を満たしておらず、特例の承認を受けていない場合は、原則処理一択になります。

土地改良区は単式簿記から複式簿記への移行が進められており、農水省や連合会の方とお話していると、今後この動きがさらに加速していくような気がしています。長期的な視点で考えれば、いずれは特例の適用はできなくなるのではないかと考えています。