社会福祉法人/これで迷わない!私立保育園の委託費、使える範囲と積立・弾力運用のポイント

 

保育園を運営していく上で、切っても切り離せないのが「委託費」です。「委託費はどこまで使えるのか?」、「委託費をもっと有効に活用できないか」と考えることもあるかもしれません。

委託費は、厚生労働省の局長通知(『子ども・子育て支援法附則第6条の規定による私立保育所に対する委託費の経理等について』)により使い道が定められていますが、この通知の内容についてポイントを整理しました。

この記事が、皆様が保育園の委託費について理解を深め、園の安定した運営に繋げるためにお役に立てば幸いです。(というか、この通知は何年も、何度も、何回読んでも難解で、読みにくいので、自分自身の整理のためでもあります。。。)

なお、委託費の弾力運用については、ここで紹介する厚生労働省の局長通知のほか、市町村独自のルールが設けられている場合があるため、実際の運用は、市町村独自のルールがないかも合わせて確認してください。

1.委託費の使い道の原則

委託費は、「人件費」、「管理費」、「事業費」から構成されていますが、人件費として支給された分は人件費に、管理費として支給された分は管理費に、事業費として支給された分は事業費に使い道が限定されています。

つまり、それぞれの名目以外の使い道には使用できません。

それぞれの基本的な使い道は以下の通りです。

  • 人件費:保育所の職員の給与や賃金など、職員の処遇に必要な一切の経費
  • 管理費:物件費や旅費など、保育所の運営に必要な経費(減価償却費加算や賃借料加算の認定を受けている場合は、建物・設備等の整備・修繕費、賃借料も含む)
  • 事業費:保育所に入所する児童の処遇に直接必要な一切の経費

 

2.委託費の弾力運用(第1段階)

委託費の使い道の原則は1.の通りですが、以下の要件のすべてを満たす保育所については、委託費の使い道に弾力的な運用が認められています。

(1)第1段階の弾力運用の内容

  • 委託費の使途の区分を超えた費用への充当:人件費、管理費、事業費の区分にかかわらず、当該保育所を経営する事業に係るこれらの経費に充てることができます。(人件費、管理費、事業費の垣根が撤廃される
  • 積立資産への積み立て:長期的に安定した施設経営のため、以下の積立資産に積み立て、次年度以降の当該保育所の経費に充てることができます。
    • 人件費積立資産(将来の人件費に充当するための積立資産)
    • 修繕積立資産(将来の建物や備品等の修繕費に充当するための積立資産)
    • 備品等購入積立資産(将来の備品等の購入費に充当するための積立資産)

(2)第1段階の弾力運用の要件

  • 児童福祉法の基準が遵守されている。
  • 交付基準等に示される職員配置などが遵守されている。
  • 給与規程が整備され、適切な給与水準が維持されているなど、人件費の運用が適正に行われている。
  • 給食の栄養確保や日常生活に必要な諸経費が適正に確保されている。
  • 保育所保育指針を踏まえ、児童の処遇が適切であること。
  • 役職員の資質向上に努めている。
  • 保育所運営以外の事業を含む設置者全体の運営に問題がない。

 

3.委託費の弾力運用(第2段階)

さらに、以下の要件を満たす場合には、第1段階の弾力運用の内容に加え、委託費の使途により弾力的な運用が認められています。

(1)第2段階の弾力運用の内容

  • 処遇改善等加算の基礎分(改善基礎分)として加算された額の範囲内で、同一の設置者が設置する保育所等に係る以下の経費に充てることができます。
    • 建物・設備の整備・修繕費、環境改善費
    • 土地・建物の賃借料
    • 建物・設備の整備・修繕費、環境改善費、土地・建物賃借料に係る借入金の償還(利息含む)
    • 建物・設備の整備・修繕費、環境改善費、土地・建物賃借料に係る積立のための支出(保育所施設・設備整備積立資産)
    • 保育所等を経営する事業に係る租税公課

(2)第2段階の弾力運用の要件

  • 以下の事業のいずれかを実施していること。
    • 延長保育事業
    • 一時預かり事業
    • 低年齢児の積極的な受け入れ
    • 地域子育て支援拠点事業
    • 障害児の受け入れ
    • 家庭支援推進保育事業
    • 休日保育加算の対象施設
    • 病児保育事業
  • 第1段階の弾力運用の要件を満たしていること。

 

4.委託費の弾力運用(第3段階)

第1段階、第2段階の要件を満たし、以下の要件を満たす場合は、更に弾力的な運用が認められます。

(1)第3段階の弾力運用の内容

  • 改善基礎分として加算された額に相当する額の範囲内(※委託費の3ヶ月分(改善基礎分を含み、賃金改善要件分は除く)とも読み取れます)で、同一の設置者が運営する子育て支援事業に係る以下の経費に充てることができます。
    • 子育て支援事業を実施する施設の建物、設備の整備・修繕、環境の改善、土地の取得等に要する経費
    • 以上の経費に係る借入金(利息含む)の償還又は積立のための支出
  • 改善基礎分として加算された額に相当する額の範囲内で、同一の設置者が運営する社会福祉事業に係る以下の経費に充てることができます。
    • 社会福祉施設等の建物、設備の整備、環境の改善、土地の取得等に要する経費
    • 社会福祉施設等の土地又は建物の賃借料
    • 以上の経費に係る借入金(利息含む)の償還又は積立のための支出
    • 社会福祉施設等を経営する事業に係る租税公課
  • 委託費の3ヶ月分(改善基礎分を含み、賃金改善要件分は除く)に相当する額の範囲内で、同一の設置者が設置する保育所等に係る以下の経費に充てることができます。
    • 保育所等の建物、設備の整備・修繕、環境の改善、土地の取得等に要する経費
    • 保育所等の土地・建物賃借料
    • 以上の経費に係る借入金(利息含む)の償還
    • 保育所等を経営する事業に係る租税公課
  • 以下の積立資産を積み立て、翌年度以降の当該保育所の経費に充てることができます。(※積立額の上限はなし
    • 人件費積立資産
    • 保育所施設・設備整備積立資産(建物・設備及び器具備品の整備・修繕、環境の改善等に要する費用、業務省力化機器をはじめ施設運営費・経営上効果のある物品の購入に要する費用、及び増改築に伴う土地取得に要する費用に係る積立資産)

(2)第3段階の弾力運用の要件

  • 第1段階、第2段階の要件を満たしていること。
  • 特定の会計基準に基づく計算書等を備え付け、閲覧に供していること。
  • 第三者評価加算の認定を受けるか、苦情解決の仕組みを周知し、第三者委員を設置し、苦情内容・解決結果を定期的に公表するなど、利用者の保護に努めていること。
  • 処遇改善等加算の賃金改善要件(キャリアパス要件含む)を満たしていること。

 

5.まとめ

段階 弾力運用の内容 主な要件
原則 人件費は人件費、管理費は管理費、事業費は事業費にしか使用できない。
第1段階
  • 人件費、管理費、事業費の区別なく、当該保育所の運営に必要な経費に使用できる。
  • 人件費積立資産、修繕積立資産、備品等購入積立資産への積み立てができる。
児童福祉法の基準、職員配置基準などが遵守されていること。
第2段階
  • 改善基礎分として加算された額の範囲内で、保育所等に係る建物等の整備費や土地建物賃借料等の経費に充てることができる。
第1段階の要件を満たし、かつ延長保育事業、一時預かり事業等のうち、いずれかの事業を実施していること。
第3段階
  • 改善基礎分として加算された額(又は委託費の3ヶ月分)の範囲内で、子育て支援事業に係る建物等の整備費や土地取得の取得に要する経費等に充てることができる。
  • 改善基礎分として加算された額の範囲内で、社会福祉事業に係る建物等の整備費や土地の取得に要する経費等に充てることができる。
  • 委託費の3ヶ月分に相当する額の範囲内で、保育所等に係る建物等の整備費や土地の取得に要する経費等に充てることができる
  • 保育所施設・設備整備積立資産を積み立て、翌年度以降の経費に充てることができる
第1段階、第2段階の要件を満たし、かつ第三者評価加算の認定を受ける又は第三者委員会を設置する、賃金改善要件を満たすなど、一定の要件を満たすこと。

 

委託費の弾力運用の取り扱いは以上の通りですが、保育園の前期末支払資金残高の弾力運用は以下で解説しています。

 

<参考>

  • 『子ども・子育て支援法附則第6条の規定による市立保育所に対する委託費の経理等について』最終改正 府子本第367号 子発0416第3号 平成30年4月16日 内閣府子ども・子育て本部統括官 厚生労働省雇用均等・児童家庭局長

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